一汁一菜でよいという実践

信州のめぐる四季のなかで食と食まわりを坦々と記録する日々。余裕のない日は一汁一菜以下、そうでない日はそれなりに。

【いろんな料理家チルドレンのわたしの本棚】ウー・ウェンさんの料理本5選

わたしは料理本がとても好きで、書店に行くと必ずそのコーナーへ足が向かいます。

好きな料理家の方の新刊はもちろんですが、そうでないものでも「これはおもしろそう!」というものがあれば手に取ります。

 

あまりにも増えすぎて、一度泣く泣く整理したことも。

 

レシピを忠実に再現することは実はあまりなくて、眺めてインスピレーションをもらったり、何度も眺めて自分の血肉にしたり、というのがわたしの付き合い方です。

 

そんなわたしが好きな料理家のおひとりが、ウー・ウェンさんです。

北京生まれで、日本に留学して日本人と結婚し、その後料理家としての道を歩み始めます。

 

ウーさんの料理は、中華料理といったときに多くの日本人がイメージするであろうものと違います。

もっとシンプルで、合理的で、透明感があります。

シンプルさは、和食以上なんではないかと感じるほどです。

 

新聞のレシピ欄でウーさんが「長ねぎと焦がし醤油のスープ」を紹介していて、その簡潔さとおいしさに衝撃を受けてから、ウーさんの本を意識するようになりました。

 

そのスープというのは、

・長ねぎをあまりいじらず、多めの油で端が茶色く縮れるほどじっくり炒める

・多めの醤油をジャッと入れて半量になるまで煮詰める

・水を入れて温める

というだけなんです。

 

いわゆるスープストックがなくても、こんなにおいしいスープができるんだ! と目からウロコが何枚も落ちました。

 

そして、中国の多彩な小麦粉料理を家庭料理の枠組みで日本に紹介したのも、ウーさんの功績です。

 

今回は、そんなウーさんの料理本で好きなものを何冊かご紹介しましょう。

 

 

 

 

 

『ウー・ウェンの北京小麦粉料理』(高橋書店)

 

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わたしが持っているのは「2008年2月5日の11刷」で、初版は2001年です。

今でもときどき書店で見かけるので、まごうかたなきロングセラーですね。

 

カバーのタイトル部分が文字の形に空押し(凹凸加工)されていて、地味にお金がかかっています。今もこの仕様なのかしら?

 

北京小麦粉料理の決定版と言うべき本で、プロセス写真を徹底して細かく紹介しています。

ジャンルはおおまかに、「水、ぬるま湯、熱湯でこねる生地」「発酵生地」「水と油でこねる生地」と分かれています。

小麦粉ひとつでこんなにもさまざまなものが作れるのか! とそのバリエーションは驚嘆の一言につきます。

中国の料理の奥深さ、合理性、芸術的なまでのあくなき探求心をひしひしと感じるのです。

 

眺めているだけでまったく飽きません。

その秘密は、紹介されている小麦粉料理のバリエーションのみならず、実演しているウーさんのチャイナブラウス、チャイナドレスのバリエーションによるところも実は大きいのではないかと感じています。

とても美しく、それでいてプロセス写真の邪魔にならない柄や色味で、本を読んでいるだけなのに「本場の料理を習っているんだわ」という臨場感があるのです。

 

さらにダメ押しで、小口側の右下に、ギョーザの包み方をパラパラ写真で紹介している親切仕様。

 

おそらく、企画・構成、撮影に時間と手間が相当かかっているのではないかと察せられ、どこまでも考え抜かれた本だからこそ、普遍性のある一冊になっているのではないかと感じます。

 

ウーさんのお母さんは、ウーさんの離乳食のために使っていたホーロー製のお茶碗で、粉びつから小麦粉をザッとすくって小麦粉料理を作っていたそうです。

きちんと計量はせずとも、一発で粉と水の加減を決めていたとか。

日本でも、小麦やそばをよく食べる地域では、そういうお母さんがいるのではないかしら?

 

と熱心に語る割に、実はわたくし、この本についてはギョーザとゴーティエ(焼き餃子)くらいしか作ったことがありません……。

失敗が怖くて、尻込みしていたのです。

とりあえずトライしてみないと何も始まらない、とようやく最近わかってきたので(遅い)、これから少しずつ挑戦してみたいです。

 

 

 

『ウー・ウェンの野菜料理は切り方で決まり!』(文化出版局)

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野菜ごとにいくつかの切り方を紹介し、それぞれに適したレシピを紹介する本です。

「葉」「茎」「根」「実」「花」と分かれています。

 

「切り方でこうも印象が変わるのか」という驚きと、「この野菜でこんな料理法もアリなんだ」というダブルの驚きがあります。

 

葉と茎がつながっている野菜(チンゲンサイ、白菜など)は、葉と茎で分けて使う、さらに切り方を分けることで、面白いようにどんどん違う料理ができていくのです。

 

旬の走りの時期はまだ柔らかいので繊維に沿った切り方で、名残りの時期は固くなるので繊維を断ち切るように、という目安は聞いたことがありますが、このように野菜ごとの“切り方一覧表”というかたちでここまでのバリエーションを見せる本はあまりないのではないでしょうか。

 

しかも、中華料理なんですが、シンプルで日本の食卓にすっとなじむ普遍性のある料理ばかりなので、とても使えます。

わたしも、この本についてはよく開いてアイディアをいただいています。

 

この考え方に慣れてくると、「今日のこの野菜はどう切るといいかな?」「こういう料理にしたいから、切り方はこうしよう」というふうに意識が変わり、料理とさらに仲良くなれると実感します。

 

 

 

『ウー・ウェンさんちの定番献立 家庭料理が教えてくれる大切なこと』(高橋書店)

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台所を預かっている人は、毎日の献立で悩むことが多いのではないでしょうか。

わたしもそのひとりです。

家庭料理は連続性で回っていくものなので、何もないところからいきなりはスタートできない(できたとしても効率、経済性がうんと悪くなる)という特性ゆえでしょうか。

 

その悩みに対して、ひとつの回答になるのがこの本です。

 

ウーさんらしいシンプルで潔い献立を、春夏秋冬ごとにサンプルとして見せてくれます。

この組み合わせのまんまこしらえてもいいですし、どれか一品だけピックアップすることもできるので、これも何かというと開く本です。

 

この本のいいところは「その料理のキモ」「なぜこうするのか」を明快に説明してくれることです。

だから、ほかの食材や料理にも応用をきかせることができます。

 

特筆すべきは、チャーハンの作り方を細かく紹介している点です。

強火でジャッジャッとあおる、という作り方ではもちろんなくて、中火で時間をかけて無理なく作っていきます。

しかも、材料は冷ご飯のほかは卵と長ねぎだけ。(調味料は油、塩、醤油)

このレシピのおかげで、うちのチャーハンはとてもおいしくなりました。

 

そうそう、こちらの献立はほとんどが一汁一菜。

その点も、気負いなく読めるポイントかもしれません。

 

余談ですが、この本の編集をされた白江亜古さんとは、わたしが女性誌の編集をしていたときにお仕事をご一緒させていただきました。

今までお仕事ご一緒したライターさんで、白江さんほど完ぺきな原稿をくださった方は後にも先にもありません。

それほど、仕事に愛情とプロ意識の高い方でした。

そんなわけで、白江さんが携わった料理本はとても信頼しているし、実際にひとあじ違うと感じています。

「これはもしや……」と思ってスタッフクレジットを見たら白江さんだった、ということが何度かありました。

 

 

 

『ウー・ウェンの家庭料理8つの基本』(文藝春秋)

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こちらは最近買った新刊です。

文藝春秋から料理本は珍しいので何かの連載をまとめたものかと思ったら、どうも書き下ろし(撮り下ろし)のようです。

ウーさんの料理家としての経験、そして家庭の台所を長年預かってきた経験から導き出された8つの「レシピに頼らない作り方」のセオリーを紹介しています。

 

・野菜は「丸ごと」調理する

・手抜きしたいときは煮ものを

・野菜の繊維を知る

・時間があるときこそ丁寧に炒めもの

・油と食材は夫婦関係

・塩の道は2通り

・もっと蒸す!

・食材は2~3種だけ

 

と、ウーさんのレシピを知っている人には思い当たるキーワードだけでなく、改めて「そうか!」と気づかせてくれる内容でした。

 

家庭料理でいちばん気が楽なのは、

・シンプルな調理法(手数・材料がすくない)

・素材×調理法で臨機応変に作れる(レシピに左右されないので無限に料理を編み出せる)

ことだと実感しています。

そのことを裏付けてくれる本でもあります。

 

人気メニューの豚角煮に紙幅を割いたり、意外と難しい塩加減について明快に説明していたり、かゆい所に手が届く内容です。

 

1品に使う材料が少ないのもうれしいですね。

素材の数が限られると料理に透明感が出てきます。

(当然、いろんな材料を使うまぜこぜの味の良さもありますが、それはまた別の話)

「自分の料理はいまひとつあか抜けない」「重たい」と感じている人には、意外と使う材料の少なさというのは参考になるかもしれません。

 

ウーさんの25年にわたる家庭料理における経験と実績の、現時点での集大成といえます。

 

 

 

『東京の台所 北京の台所 中国の母から学んだ知恵と暮らし』(岩崎書店)

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番外編としてエッセイを。

2004年の刊行で、わたしの手元にあるものは古書として手に入れたんでした。

 

再開発でどんどん失われている北京の伝統的な四合院で暮らし、その後、文化大革命で農村に下放となった子ども時代が描かれています。

それだけでも興味深いのですが、そこにウーさんが食べてきたものが散りばめられていて、五感を刺激される印象的なエッセイです。

 

食文化、食習慣、そしてその人が食べてきた“歴史”が内包するものの奥行き、広さを感じます。

食記録、食についてのエピソードをまとめた本はいろいろ刊行されていて、人気があります。

この本も、それに連なる1冊と言えます。

 

また、中国は変化が著しいので、ひと昔ふた昔前を知ることができるのは、やはり面白いです。

 

その後、運命のいたずらとも言うべき経緯で東京へ行き、北京っ子だったウーさんの目から見た日本のあれこれも興味深いです。

 

何度でも読み返したくなる魅力にあふれていて、折に触れて読み返しています。

 

 

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……わがやはまだ子どもが小さくて、本格的な食べ盛りはまだこれからです。

 

その時期も、そしてそのあとにやってくるであろう、量が食べられなくなり、料理することが気鬱に感じられる時期も、ウーさんの本はわたしの人生の末期まで寄り添ってくれるのではないかと感じています。

 

あっ、ウーさんの本を全部読みきれてはいません。

ここにご紹介したもの以外で、「これ良かったよ」という本があれば、ぜひ教えてください。